2020年が激動の一年だったことに、異論を唱える人はほとんどいないでしょう。卒業したばかりのGab Ponon(フィリピン/2020年卒業)にとって、この12か月は想像をはるかに超える浮き沈みのある一年となりました。それでも、際立った困難な状況を乗り越える力と前向きな姿勢が彼を支え、今は革新的な方法で地域を支えようとしています。Gabのストーリーをお読みください。
キャンパスを離れ、先の見えないロックダウン生活へ
たった1週間で、これほど多くのことが変わるとは驚きです。ある週は、のどかなUWC ISAK Japanのキャンパスで友人たちと過ごしていました。その翌週には、ビルばかりの大都会で、たった一人ロックダウン生活を送っていたのです。衝撃だった、という言葉ではとても言い表せません。
新しい環境は、私にとって本当につらいものでした。それでも、UWC ISAKで学んだことを挙げるなら、楽観的な姿勢と粘り強さは上位に入ります。この奇妙で閉ざされた世界での過ごし方を身につけるのは、最初は居心地の悪いものでした。自分の状況を受け入れることに加え、生活が落ち着くまでにはしばらく時間がかかりました。その代わりに、とにかく忙しく過ごすようにしました。本をたくさん読み、遅いことで有名なマニラのインターネット回線にもめげず、オンライン講座からできる限り多くを学ぼうとしました。
目にした光景に突き動かされて
部屋の外では、まったく違う方向に事態が進んでいました。当局が隔離措置の違反者を犬用のケージに入れるのを、私は目にしました。警察はまるで軍隊のようになり、明確な理由もなくジャーナリストを逮捕し、主要なニュース局を閉鎖しました。私のような市民は、「強化されたコミュニティ隔離」と呼ばれる非常に厳しい措置の下で、おびえながら暮らしていました。本当に張り詰めた時期でしたが、今振り返ると、この経験が私の中にいくつものひらめきの種をまき、それがのちに形になったのだとわかります。
ようやく家族のもとへ
ようやく帰郷できることになったとき、どれほどほっとしたか想像してみてください。1年半ぶりに、やっと家族と再会できました。田舎での暮らしは、ずっとのんびりしていました。少なくともマニラと比べれば、ですが。隔離措置はまだ続いていました。家の安心感に包まれ、大切な人たちに囲まれる中で、私はようやく、マニラでの日々から着想を得た新しいプロジェクトに取りかかりました。
リーダーシップとは、必要なことを見極めて行動すること

一人暮らしから学んだことがあるとすれば、それは観察力です。マニラでは、店主が来店客の記録をつけることになっていました。政府は、必要が生じたときの接触追跡のためだと説明していましたが、実際にどう活用できるのか、私は疑問に思いました。私は自分にできることとして、丁寧に読みやすく記入するようにしましたが、誰もがそうしているわけではないことにも気づきました。もっとよい方法があるはずだ、と思いました。
UWC ISAKでは、アイデアや関心を探究することから逃げないこと、特にそれが必要で大切なときにはなおさらだということを学びました。私は気づいたことを日常的に書き留めました。そして、McGibbon先生の「Design Thinking」の授業や、読んできた本から学んだとおり、何よりもまずエンド・ユーザーのことを考えて問題に取り組む必要がありました。
接触追跡アプリの構想を練る
図をつくり、スケッチを描き、自分自身の体験を書き出して、それをほかのユーザーの体験として想像したものと組み合わせました。近くの市では、一人ひとりに発行したQRコードの情報をスマートフォンで記録する仕組みが使われていると聞きました。それに着想を得て、自分で設計した接触追跡アプリの開発に取りかかりました。
このQRコードは、スマートフォンに画像として保存しておくものです。ただし登録には安定したWi-Fi環境が必要で、地域によってはそれが課題でした。私のアプリは、ダウンロードでき、軽量で、オフラインでも動く必要がありました。プライバシーも欠かせません。個人データが広告主に漏れるような形で個人情報を保存するわけにはいきませんでした。実際、先ほど触れた自治体ではこうした事態が起き、取り組みを中断せざるを得なくなっていたのです。
デザイン思考の基本は、エンド・ユーザーを常に念頭に置くこと
システム設計に苦戦する中で、UWC ISAKで学んだことが、エンド・ユーザーに共感するよう私を促しました。こうしたシステムに、ユーザーはどんな機能や配慮を求めているのだろうか。開発を進めるにつれ、先入観にとらわれず多面的な視点でテクノロジーを設計することが、いかに力強い実践であるかを考えるようになりました。また、純粋に誰かの役に立とうとして動くとき、人はずっと多くの工夫ができるのだということにも気づかされました。
接触追跡アプリのアイデアを売り込む
しばらくして、最も重要な問いに行き着きました。どうすればこれを実際に導入してもらえるのか。私が大きな影響を受けてきた人の一人が父です。父は地元の町議会議員で、行政手続きにテクノロジーを活用する利点を提唱していることで知られています。父に協力を頼むのは当然の選択でした。しかし、計画に納得してもらうのはそう簡単ではありませんでした。
父がそうした立場にあっても、説得は簡単ではありませんでした。それでも最終的には計画の利点を理解してもらい、協力を約束してもらえました。地元の議員たちに提案したところ、とても好意的に受け止めてもらえました。現在、ソフトウェアは町に渡り、本格導入に向けた試験運用が行われています。早く進んでほしいと願っていますが、こうした手続きにはどうしても時間がかかります。
規制上の手続きが進むのを待つ間、コストを抑えて移植性を高めるために、アプリの改良に取り組んでいます。次の課題は、1回タップするだけでBluetoothでファイルを転送できる機能を導入することです。
オープン・ソースを選んだ理由
私は最初から、このアプリを売るつもりはまったくありませんでした。実際、開発期間を通じてコードをオンラインで公開してきました。理由はシンプルで、コストを下げられるからです。先ほど触れた別の市は、人口密度がはるかに高いにもかかわらず、感染者数を比較的低く抑えることに成功していました。その大きな要因のひとつが、まさにこうしたアプリだったことは間違いありません。
では、このシステムがうまく機能したらどうなるか想像してみてください。ほかの町の人たちが、同じ成功を再現しようと私の町に相談しに来るかもしれません。開発コストがとても低いとわかれば、その可能性はさらに高まります。さらに、ほかの企業やスタートアップがこのソフトウェアを土台に、それぞれの地域に役立つものをつくることもできます。ここから先は、よくなっていくばかりだと思っています。この取り組み全体における私の貢献は、何よりもまず人々のニーズに応えるための基準をつくったことになるでしょう。
リーダーシップは実践
UWC ISAKで、私はリーダーシップが実践であることを学びました。自分の行動に、そして周りの人に、より意識を向けることを学びました。この実践はデザインにおいてとても大切で、エンド・ユーザーにより深く共感する助けになっています。そして最終的には、より思いやりのある、よりよい人間になる助けにもなっています。
私にとって、このプロジェクトはまだ始まりにすぎません。家で過ごしたこの数か月の間に、ほかにもいくつかのプロジェクトに挑戦しました。どんなプリンターもオンライン・プリンターに変える仕組み、低コストでオフラインのまま法的記録を管理できる仕組み、そして私のいちばんのお気に入りである「Messaging Engines for Medical Organizations」です。
困難な状況を乗り越える力が、成功の鍵
ただ、この数か月には困難もありました。地元では、自分たちの土地を冗談まじりに「ng walang katapusang dilubyo」(終わりのない天災の地)と呼んでいます。これまでに経験したことのないほど強い嵐が、1か月、4週間にわたって次々と襲ってきました。各地で洪水が起き、私が子どものころに住んでいた家も、岩や泥に埋もれて大きな被害を受けました。停電もとても長く続きました。
それでも私は、私たちの土地は「ng walang hanggang pananalig」(終わりのない信念の地)でもあると信じたいのです。どれほど厳しい逆境にあっても決して引き下がらず、何度でも立て直していく。私たちがこの価値観を持っていることを誇りに思いますし、それが毎日私を奮い立たせてくれています。
大学での新しい生活
現在、Case Western Reserve Universityで工学物理学を専攻しています。何カ月も手を尽くし、待ち続けた末に、ようやくキャンパスにたどり着き、大学1年目を迎えました。授業の大半や大学の活動の多くはオンラインですが、それでも、新たに見つけた情熱に打ち込むことをやめてはいません。
たとえば、Humanitarian Design Corpsに所属し、より持続可能なバス停の照明づくりに取り組んでいます。また、Design for Americaのチームでは、発達障害のある人々が主体的に人とつながれるよう、イベント・カレンダーの制作を進めています。さらに、キャンパス内のバスを追跡するオープン・ソースのシステム「Omnibus」というプロジェクトも立ち上げました。いずれは全米の大学キャンパスと共有したいと考えています。
UWC ISAKが私の人生に与えた影響
UWC ISAKは、私の考え方や世界の捉え方に大きな影響を与えました。コミュニティの一員として過ごすなかで、他者について学び、相手の視点から世界を見ることを大切にする価値観に深く浸りました。昼食を囲んでの会話や、数多くの授業だけではありません。高校生活のあらゆる場面で、自分とはまったく異なる人たちと共に過ごせたことも大きな学びでした。そうした日々が、共感、理解、思いやりを育んでくれます。
UWC ISAKで過ごした最後の3カ月は、私にとって決定的に大切な時間でした。気持ちにゆとりがあり、コミュニティの一員であるとはどういうことかを肌で感じられた時期です。かけがえのない、深い意味を持つ人間関係のいくつかを築いたのも、この時期でした。
こうした経験を経て、私は今、自分のためだけではなく、人のために働いているのだと信じるようになりました。自分のコミュニティだけでなく、ほかのコミュニティのためにも力を尽くすことを学びました。素晴らしい友人たちは、自分を信じること、優しくあること、思いやりを持つこと、そして正義と周りの人々のより良い暮らしを目指すことを教えてくれました。今では人生で最高の2年間だったとわかるあの日々で学んだことに報いるために、私はこうして行動しています。
ちょっとしたアドバイス

UWC ISAKのみなさんへのアドバイスです。今ここで得ている人生の経験を、思い切り楽しみ、受け止めてください。UWC ISAKは特別な場所ですが、そこで何を得るかはあなた次第です。価値観を持った一人の人間として成長するのにふさわしい場所です。そこでしっかりと学べば、どんな困難にも誠実に向き合い、希望を持って未来を見つめられるようになると、私は約束できます。
何かを変えたいと願う人へのアドバイスは、もっと良い聞き手になることです。周りの人が何を必要としているかに目を向け、相手の立場に立って考えてみてください。新しいことを学ぶことから決して逃げずに、ほかの視点を理解しようとしてください。自分がどれほど多くのことを思いつくか、きっと驚くでしょう。そして、新たな可能性に触れて、気持ちが新たになります。
心を込めて
Gabriel Ponon(フィリピン/2020年卒業)
